飼い犬が子供に危害を加えてしまったら

 近年,ペットを飼う家族が急増し,それに伴いペットが他人に危害を加えるリスクも高まっております。
 
 ペットが他人に危害を加えた場合,飼い主はどのような場合に損害賠償義務を負うことになるのでしょうか。
 もちろんペットは民法上動産として扱われており,ペット自体を被告とすることはできません。)。

 ペットが他人に危害を加えた場合,一般の不法行為を規定する民法709条は適用されず,同条の特則として,民法718条が適用されます。
 718条は,以下のような規定を置いています。

「動物の占有者は,その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし,動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは,この限りでない。」

    どの点が一般の不法行為を規定する709条の特則かというと,前回記事にした未成年者の監督義務違反に基づく親の責任を規定する714条と同様,加害者の側で過失の不存在を立証できなければ,加害者側は敗訴してしまう点といえます。

    ですから,訴えられた飼い主の側で,自分が相当の注意をもってペットを管理していたことを立証できなければ,過失が認定されてしまうことになるのです。

  別の言い方をすると,ペットが他人に危害を加えた場合,飼い主の過失が推定されてしまうことから,推定を覆すことができない限り,責任を負うということになります。

訴えられた側はどこを法的な争点とするか

ペットが他人に危害を加えた場合,飼い主の過失が法律上推定されます。したがって,飼い主が相当の注意を払っていたことを証明して勝訴することは,ハードルが高いといえます。
 
 その結果,飼い主としては十分にペットを管理していたと考えても,過失の不存在1本で勝負するかは相当慎重に考えなければなりません。

 もう一つの対応の仕方としては,責任の存在を争いつつ(過失の不存在を主張しつつ),被害者の落ち度を主張することも考えられます。
 被害者の落ち度を理由に損害賠償額を減額させることを過失相殺といいます。

 ペットによる加害事故を起こした飼い主としては,過失の不存在を主張して責任の存在自体を争うか,同時に過失相殺主張するか慎重な検討が必要となります。

加害行為と過失の判断

 たとえば,大型犬を公園(ドッグラン以外)でリードにつなぐことなく散歩させた結果,大型犬が子供に噛みついた場合,飼い主が免責されることはほぼないといってよいでしょう。

 その他事例として以下のようなケースがあります。

 営業マンが営業目的で見知らぬ一軒家を訪問した際,庭の中でリードにつながれていた犬に噛まれた場合

 上記の場合で,その犬が以前も同じような事故を起こしていた場合

 上記の場合で,あえて訪問客が犬に近づいて触ろうとした際に噛まれた場合

 自宅敷地内の事故で,表札のわきに「犬注意」のマークがあった場合となかった場合

 公道上で犬が突然吠えかかり,びっくりした子供が転倒して怪我した場合

 公道上ではなく,飼い主の所有権が及ぶ自宅敷地内で犬が訪問客に吠えかかったところ,訪問客がびっくりして転倒した場合

 これらのケースで過失の有無が争われた場合,被害者側としては,もともと当該動物の持っている危険性が発現した事故であること,それにもかかわらず飼い主がしっかりとした管理をしていなかったことを強調していくことになるでしょう。

 一方,飼い主側は,飼い主が当該動物の持つ危険性を防止するため,きちんと犬を管理していたこと,被害者側に犬の危険性を誘発させた事情があったことを強調していくことなるでしょう。