日常的に使われる「相続の放棄」

日常的に「相続の放棄」という言葉が交わされることがありますが,実はそこで交わされる「相続の放棄」と法律上の相続の放棄は必ずしも同じ意味で使われおりません。

日常的に使われる「相続の放棄」として,以下のようなケースがあります。
たとえば,遺産としてさいたま市内に不動産があった場合で,相続人は長男埼玉太郎,二男桶川二郎の2名だとします。

この場合,本来,二男桶川二郎には2分の1の法定相続分があるわけですが,長男が不動産を取得し,二男は代償金ももらわない形で遺産分割協議書に署名押印するケースがあります。

つまり,法定相続分(権利)があるにも関わらず,何からの事情で権利を放棄したという意味で「相続の放棄」という言葉が使われることがあります。
もちろん,このような取り決めも法律的には有効ですし,家庭裁判所の許可も必要ありません。

民法915条の相続放棄

一方,民法915条の相続放棄は,簡単に言いますと,通常,被相続人にさしたる遺産がなく,むしろ借金がある場合に,その借金から解放されるため,家庭裁判所に申述する手続を意味します。

被相続人の残した借金は,法律上当然に法定相続分に従って相続人に受け継がれます。
たとえば,父親鴻巣三郎が500万円の借金を残して死亡した場合で,相続人が長男,二男の2名の場合,長男,二男は協議するまでもなく,250万円ずつ借金を受け継ぐことになります。
これは相続人が勝手に相続の割合を取り決め,債権者の利益を害することを防ぐ必要があるからです。

これに対し,相続人が借金から免れるための制度として相続放棄があります。相続の放棄は家庭裁判所に相続放棄申述の手続をとらなければなりません。

この申述手続には期限があります。

民法915条
相続人は,事故のために相続の開始があったことを知った時から三箇月以内に,相続人について単純若しくは限定の承認又は放棄をしなければならない。
但書省略

さしたる遺産がないからといって,遺産の調査を怠ってはいけないということになります。