消息不明の相続人
遺産相続をしなければならなくなったのにもかかわらず、相続人の中に消息不明の人がいる場合があります。
遺産分割協議は相続人全員で行わなければなりませんので、一人が欠けては成立しません。
いない方が悪いというわけにはいきませんので、どうにかする必要があります。
消息不明といっても、単に疎遠になっているだけで、相手がきちんとした住所などがある人であれば調査すれば通常は連絡がつきます。
連絡がつけば、あとはその人とも協議をするということになるわけですが、調査をするのも、疎遠になっている人と遺産分割協議をするのも、自分でするのは大変なので、弁護士に依頼するのが一般的でしょう。
連絡がつけばいいのですが、一番問題となるのは、どこでどうしているか全く分からないケースです。
そうした場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任の申立などを検討する必要が出てきます。
失踪宣告
調査によっても相続人の消息が分からなかった場合は、その人について家庭裁判所に対して失踪宣告や不在者財産管理人選任の申立をすることを検討することになります。
失踪宣告とは、一定期間所在不明で生死が分からない人に対して、法律上死亡したものとみなす効果を生じさせる手続きです。
通常の場合は7年間生死が明らかでない必要がありますので、例えば3年前までの足どりは判明しているという場合はただちには利用できません。そうした場合は、不在者財産管理人選任申立を検討することになります。
7年間生死不明ということで失踪宣告を申し立てたとしても、その後に行われる裁判所の調査によって生存していたことが分かることもあります。例えば、その人が最近、免許の更新をしていたことが判明するなどです。
また、失踪宣告がなされたとしても、その人が死亡したものとして扱われるだけですので、その人に子どもなどがいれば代襲相続人となりますので、その子どもも含めて遺産分割協議をしなければなりません。
もともとの遺産分割の相続人と失踪宣告された人の相続人とで重なる部分とそうでない部分があったりしますので、遺産分割協議の際はミスがないようによく調べる必要があります。
不在者財産管理人
調査などをしても消息の分からない相続人がいる場合、その人について、家庭裁判所に不在者財産管理人選任の申立をすることを検討することになります。
不在者財産管理人とは、文字どおりの意味ですが、消息不明になってしまった人の財産を管理する人です。
消息不明の相続人に代わり、この不在者財産管理人を加えて遺産分割協議を行うことになります。
遺産分割することを前提に申立をするということになると、不在者財産管理人には家庭裁判所により弁護士が選任されることが考えられます。
不在者財産管理人が選任され、ようやくもともとの目的であった遺産分割協議ができるようになります。
ただ、家庭裁判所への申立前にする代理人の調査などや、申立後の家庭裁判所の調査などの時間がかかりますので、かなり順調にいったとしても半年はかかることを覚悟する必要があります。
また、不在者財産管理人の費用をどうするかという問題もあります。家庭裁判所が選任するわけですが、家庭裁判所が負担してくれるわけではありません。
不在者財産管理人を含めた遺産分割協議
消息不明の相続人に対して家庭裁判所に不在者財産管理を選任してもらったからといって、思いどおりの遺産分割協議ができるわけではありません。
例えば、相続人の兄弟姉妹間で長男が全ての遺産を相続し、他の相続人は何も相続しないという約束ができていたとしても、不在者財産管理人がそれに応じるというのは難しいでしょう。
不在者財産管理人としては、消息不明となっている本人の利益を守る必要があるからです。
それは本人がいたとしら拒否はしないだろうという場合でも同じです。
本人がいない以上は、不在者財産管理人としては、やはり経済的に本人が不利益にならないようにする必要があるからです。
不在者財産管理人としては、法定相続分は確保しないと協議に応じられないところでしょう。
加えて、そもそも不在者財産管理人は自分の一存で他の相続人と遺産分割の内容を決めることはできません。
不在者財産管理人が家庭裁判所の許可をとる必要があります。
というのも、不在者財産管理人は文字どおりの管理人であって、財産を売却したり、遺産分割を成立させたりする権限はないからです(法律的には「処分」と言います)。家庭裁判所の許可があって初めて可能になります。