遺産分割調停は,どこの裁判所に申し立てをしてもいいわけではありません。
遺産分割調停の場合,「相手方の住所地」または「当事者が合意で定める家庭裁判所」となります。これを管轄といいます。
まずは前者の相手方の住所地についてみていきます。
たとえば,広島在住の父親が死亡し,3名の相続人がそれぞれさいたま,沖縄,札幌に居住しているとします。
この場合,それぞれ地元の弁護士に依頼するとなると,どこの裁判所に調停が係属するかは極めて重要となります。
たとえば,さいたまの弁護士は,「自己(依頼者)の住所地」であるさいたまの家庭裁判所に申し立てることはできません。さいたまの弁護士が札幌の裁判所に申立てを行いますと,札幌の裁判所で調停が開かれます。
そうなると,沖縄の弁護士,沖縄在住の当事者は原則として札幌まで出向く必要があり,大変です。
上記例は極端ですが,たとえば,対立する相続人2名が仙台,自分ともう一人の相続人がさいたまに居住しているケースでは,仙台に管轄をとられることは避けたいところです。
もっとも,今は法律上,電話会議システムによる審理が法律上可能となっておりますので,特に代理人の弁護士が就いている場合は,負担が軽減されたといえます。
とはいっても,なるべくであれば,直接出廷し,自己の主張を述べていきたいところです。
このように,相続人の住所地が全国にわたるケースで,当事者間の対立が激しい案件については,自己に不利な管轄をとられないため,交渉を経ずに,協議が整わないものとして,裁判所に調停を申し立てることもあります。
これに対し,既に代理人間で交渉をしているケースで,交渉を決裂させ,調停を申し立てる際には,申立書類を準備し,すぐに申立ができる状態にした上で,一言相手方代理人に調停の申立をすることを通知するようにしております。
後者の合意の件です。
たとえば,相続人が,栃木県,さいたま,群馬県にそれぞれ在住の場合で,それぞれ東京の弁護士が代理人として就いている場合,東京の弁護士としては東京家庭裁判所が一番近く慣れ親しんでいるということで,3者が合意して管轄を東京の裁判所に定めることができます。
調停をお考えの方は,どこの裁判所に調停を申し立てるかも意識する必要があるでしょう。