財産の流出と遺産分割

ご相談の内容

遺産分割協議において,被相続人(亡くなった方)の生前,死後に,被相続人名義の口座から多額の現金が引き出されていたことが判明し,協議が紛糾することがあります。
このような場合,どのような解決があり得るでしょうか。架空の事例を設定してご説明します。

たとえば,相続人がAさん,Bさんの2名で,遺産の総額が600万円のケースで考えてみましょう。
被相続人の財産は預貯金数口で,被相続人が亡くなる前から長男のAさんが管理していたとします。

弁護士への相談

現存する遺産を,法定相続分どおり1/2ずつ分けることでまとまるのであれば特に問題はありません。残された遺産を単純に半分にするだけであれば,弁護士に依頼する必要もないでしょう。

ところが,Bさんは,以前からAさんによる被相続人の財産管理に疑問をもっており,生前,被相続人からも愚痴を聞いていました。
そこで,念のため,遺産分割協議に入る前に,弁護士にアドバイスを求めるべく法律事務所を訪れました。

弁護士からは,「まずは,被相続人名義の預金口座の履歴を取り寄せて,お金の流れを調査してください。」とアドバイスを受けました。
なお,被相続人名義の口座番号等が分かれば,BさんはAさんの協力なく単独で履歴を取り寄せることが可能となります。

数週間後,Bさんは,預金口座の履歴を持参して再度弁護士のもとを訪れました。

履歴を調査した結果,被相続人の生前に,被相続人名義の口座から数十万円,百万円単位の多額の金銭が何度も引き出されていることが判明しました。

弁護士への依頼と委任契約の締結

そこで,Bさんは,遺産分割協議とともに,引き出された多額の金銭の取り戻しについても弁護士に依頼することになりました。

Bさんは,弁護士から弁護士費用(着手金・報酬金等)の説明を受け,委任契約を締結しました。
Bさんは,弁護士から,Aさんが勝手に引き出した財産の1/2と現存する遺産の1/2を経済的利益として計算された弁護士費用を提示され,その内容で案件処理を依頼しました。

弁護士の案件処理

案件処理に着手した弁護士は,まず多額の金銭が引き出された当時における被相続人の判断能力について調査を行いました。
Bさんは,弁護士から,被相続人に当時金銭を管理する能力がなかったか否か,銀行に出向いて払い戻しを行うことが物理的にできたか否かを確認するために調査するのですとの説明を受けました。

また,引き出された事実だけでなく,誰が引き出しを行ったか証明できるようにするため,弁護士法23条照会の制度を利用して,銀行に払戻票等の開示を申し出ました。

その結果,引き出された当時,被相続人が認知症かつ要介護5の状態で,寝たきりであったこと,払戻票の筆跡から,実際に払い戻しを行ったのが当時被相続人の管理を行っていたAさんであることが判明しました。

これにより,少なくとも,当時被相続人が自分で現金を引き出さすことができず,引き出したのがAさんであること,認知症により,被相続人が金銭の引き出しをAさんに依頼することもできない状態であったことが証明できることになります。

以上の調査をした上で,Bさんの弁護士は,内容証明郵便で,この違法に引き出された金銭の返還を求める通知をAさんに行いました。

すると,Aさんから,確かに自分が引き出したものではあるが,この金銭は被相続人のために使ったものであり,自己のため費消したものではないとの回答が書面でなされました。

Bさんは,この回答書を見て,引き出された金銭はもともと遺産であるとして,引き出された金銭と現存する遺産の分割を併せて調停に申し立てようと考えました。

しかし,Bさんの弁護士は,「調査の結果,Aさんが生前贈与を受けた可能性は低く,遺産分割協議でAさんの特別受益を主張するのは相当でない。」,「遺産分割調停では引き出された金銭を遺産であるとAさんが認めない限り,少なくとも引き出された金銭の回収を図ることは難しい。」とのアドバイスを受けました。

そこで,Aさんは,現存する遺産について家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てるとともに,調査した資料から十分な証拠が確保できたと考え,引き出された多額の金銭の返還を求める損害賠償請求訴訟を提起することになりました。

解決と精算

その結果,損害賠償請求の裁判は和解が成立し,現存する遺産を対象とした遺産分割調停についても,Bさんの満足のいく形で調停が成立しました。
Bさんは,弁護士を通じて,和解に基づいてAさんから解決金を受領するとともに,遺産分割についても代償金を受領しました。
Bさんは最後に弁護士事務所に赴き,弁護士費用の精算を行い,無事案件は終了しました。