遺言書が被相続人の字ではなく、他人が作成した可能性がある場合の民事上の対応について、次のようなケースで考えてみます。仮定的な例です。

父、母、子2人(兄と弟)の家族で、母は既に他界し遺産分割は済んでおり、今回は令和3年に父が死亡した。子は2人とも成人している。
父の死後、父の自筆証書遺言が見つかり、子のうち兄の方に全財産を相続させる内容であった。遺言書の検認は済んでいる。
弟が見ると、父の字ではないと考えられる。
弟が遺言は無効だと主張するには、民事上の手続ではどうしたらよいか。

さて、遺言が有効ですと、兄が全財産を取得しつつ、弟は遺留分侵害額請求を行うかどうかの問題となります。弟が主張できるのは4分の1相当です。

しかし、遺言が無効ですと、法定相続分は兄と弟で2分の1ずつとなり、弟の取り分が増えます。
さらに、遺産の中に欲しい不動産があっても、遺留分侵害額請求では金銭での清算になります。他方で、遺言が無効ですと不動産の相続もできます。遺言が有効か無効かが重要な分岐点となります。

弟は、父の筆跡に関する証拠を集めたり、遺言の作成日付の前後の事情など、様々な事情から遺言無効を主張できるか検討する必要があります。

見通しが立つならば、弟は兄を相手として、地方裁判所に遺言無効確認訴訟を提起する方法があります。
筆跡が争点となるのはもちろん、父が兄に全財産を相続させるという遺言を行う動機や経緯があったかなど、諸事情を考慮して判断されると思われます。

訴訟の結果、裁判所で、被相続人が書いたものでなく無効だと判断され、遺言無効の判決をもらえれば、遺言の無効を前提として、兄と遺産分割協議を行います。