相続分の譲渡

相続分の譲渡という言葉を聞いたことがあるでしょうか。

民法では相続人が第三者に相続分の譲渡をする場合の規定を置いております。

民法第905条
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは,他の共同相続人は,その価額及び費用を償還して,その相続分を譲り受けることができる。

しかし,実務的には,相続人が他の相続人に相続分を譲渡するケースが圧倒的に多い印象があります。

相続分譲渡が利用されるケース

たとえば,被相続人北本五郎が死亡し,長男蓮田一郎,二男熊谷太郎及び三男久喜次郎の3名が法定相続人であるとします。それぞれの法定相続分は3分の1です。

この場合で,長男蓮田と二男熊谷の間で遺産を巡って熾烈な争いがあり,その一方で三男久喜は遺産に興味がなく,争いに巻き込まれるのを嫌がっていたとします。

ついに,長男蓮田と二男熊谷の争いはさいたま家庭裁判所の遺産分割調停の中で話し合われることになったとします。

この場合に,争いに巻き込まれたくなく,長男に親近感を持っていた三男久喜は,長男蓮田との合意により,自己の相続分を譲渡することができます。

その結果,長男蓮田は3分の2の相続分を持つことになります。一方,三男久喜も相続分を譲渡した代わりに遺産分割の当事者から外されることになり,調停に出廷する必要もなくなります。

相続分譲渡をする際の必要書類

家庭裁判所には,通常,相続分譲渡証書,脱退申出書,即時抗告権放棄書の3点セットを提出することになります。実印を押印し,印鑑登録証明も添付します。

なお,相続分の譲渡は調停外でも行うことができます。