建物賃貸借契約の終了にともない、賃貸人と賃借人とが、原状回復をめぐってトラブルになることがあります。
従来は、賃貸人から原状回復費用の分として敷金を差し引かれて、全く敷金が戻ってこない場合も多かったのかもしれません。
しかし、近時では、原状回復をめぐるトラブルの増加により、裁判所が個別に司法判断をするのみならず、国土交通省が「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」というものを公表しており、細かな部分まで整理がなされています。
もちろん、裁判所がこのガイドラインに拘束されるわけではありませんが、実際の裁判でも、重要な資料となっています。
さて、賃借人の原状回復義務とは、そもそも、何なのでしょうか。
原状回復について、上記のガイドラインでは、賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、①賃借人の故意や過失、②善管注意義務違反、③その他通常の使用を超えるような使用による損耗や毀損を復旧することと定義されています。
つまり、経年変化や通常損耗は、普通に生活していても発生するのだから、賃貸人もそれを考慮して家賃でカバーしているはずである。だから、賃借人が負担するのはおかしい、というわけです。
しかし、それを超えるような場合、つまり、わざと、あるいは過失で建物を傷つけた場合や、通常の使用を超えるような傷つき方をしたような場合などは、賃借人が負担するものだと考えています。
では、どの範囲が通常損耗で、どの範囲が故意・過失などによる損傷にあたるかが問題となります。
これについても、上記ガイドラインは、建物の部位ごとに、細かく基準や例をあげています。
たとえば、よくある「専門業者による全体のハウスクリーニング」は、賃借人が通常の清掃を行っていた場合は、賃借人が費用負担せず、賃貸人が負担すべきだとされています。
なお、普通の原状回復義務を超えた負担を賃借人に課すような特約がある場合、それが有効になるためには、一定の要件をクリアすることが必要です。
このように、原状回復をめぐるトラブルでは、賃貸借契約の内容はもちろん、裁判例や、上記ガイドラインなどを参考に、賃貸人負担なのか、賃借人負担なのかを、判断していくことになります。