雇用の有無
従業員が会社に未払いとなっている残業代を請求する場合、当然ですがチェックしていくべきポイントがあります。
残業代も給与の一部ですので、まず大前提となるのが、会社と従業員の間に雇用関係があるかどうかです。
そんなことがあるのかと思われるかもしれませんが、特に建設業などでは、雇用なのか請負なのかがあいまいな場合も多々あります。
請負契約の場合、特別な定めがない限りは長時間作業したからといって追加で報酬をもらえるわけではありません。
とはいえ、雇用契約書を取り交わしていたり、労働条件通知書を渡されていたりするなどして、実際にも従業員として就業している場合については、「労働者性」について問題となることはあまりないかと思います。
労働条件等
従業員が会社に雇用されているとして、次にどのような内容で雇用されているかチェックする必要があります。労働契約書や就業規則、賃金規定などを検討します。
ところが、口頭の合意だけで雇用され、就業規則なども定めていないような会社だと、これまでの経緯や給与の支払い内容などから労働条件などを考察していく必要があります。
「残業」というためには、労働契約で定められた時間を超えた部分である必要があります。とはいえ、労働基準法の基準を下回るような労働条件の定めは無効ですので、労働基準法の基準が最低限度となります。
残業時間の算出、立証
残業代を会社に請求するにあたっては、何月何日の何時何分から何時何分まで残業をしたといったように日時などを特定する必要あります。
とはいえ、細かい時間まで覚えているなどという人はいないと思いますし、会社側も「記憶によればこうだった」と言われたからといってそのとおり認めることはほとんどありません。
そこで、会社に対してタイムカードのコピーなどを出してもらうことになります。
しかし、すんなりと出してはくれない場合もありますし、そもそも会社にもタイムカードのような客観的な資料がない場合もあります。
また、定時にタイムカードを打刻するよう言われていたなどの事情があって、実際の残業時間を反映していないケースもあります。
明確な資料がない場合、会社の業務の流れはどのようなものだったかなどを踏まえ、存在する資料をもとにどこまで立証できるかを検討しつつ進めていくことになります。
管理監督者
管理職になると残業代をもらえなくなると考えている方は多いと思います。これは、そのとおりである場合もありますが、法律的にはそうではない場合が多いと言えます。
法律上の「管理監督者」に該当するかどうかは、職務内容や権限、勤務態様や待遇などから実態に即して判断されます。
この点、裁判所は管理監督者に該当するかどうかについては厳格に判断する傾向があると言われています。
例えば、昇進して管理職になったものの、仕事内容は変わらず、残業代がもらえなくなった分、給料が下がったというような場合は、法律的には管理監督者には該当せず、残業代が認められる可能性が高いと言えます。
定額残業代
会社が従業員に支給している特定の名称の手当が残業代相当であるといった主張や、基本給に残業代相当も含まれているといった主張がされることがあります。
しかし、こうした主張が認められるには、それに応じた要件を満たしている必要があります。
定額残業代についての実質的な合意があることをひとつの要件として挙げる裁判例や、基本給部分との明確な区別がされていること、そして、基本給に含むとされている残業代が、実際の残業時間に対する労働基準法所定の計算方法による残業代の額を下回る場合にはその差額を支給する旨合意がされている場合のみ残業代の一部などとすることができるとする裁判例などがあります。
こうした条件を満たしているかよく検討する必要があります。
割増
残業代は、ほとんどの場合、通常の労働時間内の時間当たりの給与に対して一定割合の割増がなされます。
「割増賃金」と呼ばれます。
例えば、1日8時間を超える労働をした部分について、一般的には、時間当たりの通常の賃金の1.25倍の残業代が発生します。
休日労働に該当する場合や深夜労働に該当する場合などは、また異なる割増率が適用されます。
割増がなされるのは、残業は通常の労働の範囲を超えた特別の労働であり、その補償をさせるという意味と、会社に割増という経済的な負担をさせることで時間外労働などを抑制させる政策的な目的などがあります。
割増されない残業代
残業代は、通常の時間当たりの給与よりも一定割合の割増がなされるのが通常です。ですが、割増がなされない残業代もあります。それは「法内残業」や「法定内残業」と呼ばれるものです。
例えば、勤務時間が9時~17時で昼休みが1時間という場合、労働時間は7時間ということになります。17時から18時まで残業した場合、1時間分の残業代は発生しますが、割増はないのが原則です。
というのも、労働基準法が割増について定めているのは、1日8時間を超える部分だからです。8時間以内の労働は、もともと予定されている労働時間内であるため割増の適用がありません。
ただし、会社の就業規則などで、この部分についても割増する旨の定めがあるような場合には8時間を超える場合と同様に割増がされます。
労働審判
残業代を請求する際の手段として、地方裁判所で行われている労働審判を利用する場合が多くあります。
通常の事件ですと、まずは相手と話し合いをして、まとまらないようならば裁判などをするのが一般的です。
ですが、残業代請求に関しては、消滅時効の問題があるため、話し合いをずるずると続けている間に、古い部分から順に時効にかかり、請求できる金額が減っていってしまう危険性があります。
この点、労働審判などの申し立てを裁判所にすると、基本的にはその後の時効については気にする必要がなくなります。
話し合いで解決してほしいという要望があることも多いですが、残業代については早期に裁判所に申し立てをするメリットが大きいと言えます。